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社会人から作家へ

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 DECOBIには社会人を経験した後、もう一度勉強しようと入学された方が多くいます。そのような選択をされた人達の過去、現在、そして未来への展望を、インタビュー形式で紹介しています。

第2回
 金子恭史さん(金属工房出身)

経歴

東京都出身
1999年 東北大学大学院・理学研究科生物学専攻・博士前期課程卒業
1999年〜2003年 レンゴー株式会社
2003年 DECOBI入学、金属工房専攻
        (入学時 29歳)
2006年 DECOBI 卒業
2006年  「家風」参加
     「Metal NEKO」 設立(代表)

金子さん

Q.ものづくりに興味や関心を持ったきっかけを教えて下さい。

 子供の頃から何か作ることには興味がありました。工作をしたり、プラモデルを作ったり。そのころは趣味の範囲内の事で、「何か作ること」が将来の仕事としては結びついていませんでした。

 大学で「生物学」を選んだのは、純粋に自然や生物が好きだったから。なぜ世界中の多様な環境に、こんなにも多様な生物が生きているのか。生命の意味や進化などを学び、考えた事が、そのまま自分自身の人生観や精神面、世界観などにとても大きく影響したと思います。最初のうちは研究者になったり、自然保護関係の仕事ができれば、と考えていました。ただ、私が勉強していたのは「基礎研究」というもので、社会との繋がりがなかなか感じられにくいものなんです。例えば「宇宙はどうやって生まれた」とか「生命はどうやって生まれた」という根本的なところ。それに対して、「応用研究」はというと、薬の開発をしたり、農作物の新品種を開発したり…。基礎研究というものも、とても大切なのですが、知的好奇心が並外れて強く、本当に好きな人でないと続けていけないだろうな、と思うようになりました。

 そういった訳で、就職活動の時には、仕事を通じて社会や環境に貢献できたり、人や社会と繋がりが感じられる職種を探しました。環境保全や自然エネルギー、リサイクル素材の研究開発など、関心のある分野の様々な団体や企業を訪問しました。その中で、植物の繊維であるセルロースを主原料とする製紙業に興味を持ち、紙からできる段ボールなどの梱包資材を製造している会社に就職しました。

 特に段ボールは古紙を主原料とし、リサイクルの王様と言われますし、古紙を利用した新しい緩衝剤の研究なども行っており、この仕事をやってみたいと思いました。

 会社ではものを作るということ、仕事の進め方、社会人としてのマナーなど、仕事とはどういうものか、という、とても大切な事を学びました。ただ、巨大な工場で大きな機械を使う大量生産の現場をずっと見続けていくうちに、段々と疑問が浮かんできました。特に段ボールは大量消費の代名詞のような存在でもあったので…。現場でものづくりの喜びや苦しみを身に染みながら、何かを作る仕事をしたいのは間違いないけれど、今の仕事が本当に一生かけてやりたい仕事だろうか? と、ずいぶん悩みました。

金属 照明 表札

 そんな時に、興味があって読んだアンティーク家具の本の中で「ものの価値はオークションでいくらの値段がついたかではなく、そのものにまつわる想い出の値で決まります」ということばに出会い、とても心を揺さぶられました。その時やっと、本当にやりたい事が分かったような気がしました。

 「使う人に愛着を持って長く使われ、そこに様々な想いが込められるようなものづくりがしたい。」その時に決めた目標は、今もずっと変わっていません。

Q.DECOBIを選んだ理由は?

 丁度転職のことを考えはじめていた頃、偶然新聞に紹介されていたDECOBIの記事を目にしました。様々なジャンルの作り手達でコラボレーションをしたり、空間を作ったりできるというのにとても興味を持ちました。「あぁ、これだ」と思いましたね。学校に様々な工房があり、最初に基礎的なことを一通り触れられる、というのもとても魅力的でした。将来いろいろなジャンルの人達と一緒に仕事をするときに、ほんの少しでもその素材のことや作り方、特性などを知っておくことが必要だと思いましたし。

 体験入学にも一度行ったのですが、そのときに体験したのが金属で足の部分を作り、天板を木で作って組み合わせるスツールの制作でした。今ではあたりまえのように行っている「鉄を熱して曲げる」作業や、「木にヤスリをかける」作業など、どれも新鮮で面白さを感じました。

 美術や工芸について、それまで専門的な事はまったく学んでこなかったので、きちんと基礎から学びたいという思いもありましたし、なるべく幅広い視野で、できる限り多くのことを学びたいと思いDECOBIを選びました。

金子さん作業風景

Q.周囲の方に反対はされませんでしたか?

 会社を辞めて学校に入ることは、両親、職場の上司や同僚にも反対されました。最初に会社に辞めたいと伝えた時は、まだその後の進路も決まっていなかったこともあり、辞表を二度提出しても受理されませんでした。結局はDECOBIへの入学が決まったことで、やっと会社にも理解してもらえました。

 私の送別会のときに、いつも相談に乗って頂いていた製造部門の上司が、スピーチの際に言葉を詰まらせ、涙を流されて、とても心に響きました。クレーム処理というハードな仕事でしたが、今までやってきたことがすべて報われたような気持ちになったのと同時に、自分の都合で会社を辞めてしまい、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。いろんな人の思いを無にしないように、なにがなんでもがんばろう、そう思いました。

 特に父には、最後まで反対されました。しかし学校に入学し、ものづくりを始めて作品を発表する段になり、展示会場に足を運んでくれる父を見て、口には出さないけど認めてくれたんだな、と感じました。

金属 ポスト

Q.実際に入学してみてどうでしたか?

 自然が豊かで、制作に打ち込むにはとても良い環境だと感じました。私が入学した学年は、高校を卒業してすぐの子と既卒者との割合が半々で、それも良いバランスだったと思います。最初は年が離れすぎているので浮いてしまうかなと思っていたのですが、自分が意識しすぎなければ年齢差は全然気にしなくても良かったですね。同級生達も変に気を使わずに接してくれましたし。

 私は車を持っていたので、免許のない年下の同級生たちを乗せ、みんなで遊びに行ったり、ちょっと離れた場所まで買い物に行ったりしたのも良い思い出です。

 

Q.1年次の授業はどうでしたか?

 色々な素材や異なる分野の人達とものづくりをしていきたいと考えていたので、その為には少しでも多くの素材のこと、技法のことを知っておきたいと思っていました。「工房交流」の授業では、自分の専攻している金属以外の5工房を体験でき、それをきっかけに気軽に他工房へ見学に行けたりして、鉄以外の様々な素材を学べました。現在の私の制作活動に繋がる、貴重な経験だったと思います。

金属 鍛造作品

Q.2年次以降、そして工房での授業はどうでしたか?

 工房では色々な意味でやりたいようにやらせて頂きました。おかげでイチから自分で考えてつくる訓練になったと思います。授業以外の時間も月曜日から土曜日まで、学校が開いている時はほとんど工房で制作していましたね。夜の9時までどっぷりものづくりに打ち込める環境は、とても恵まれていたと思います。

 制作物では金属工房内の研究室にロフトを作ったことや、共通プロジェクトでの図書室の改装、そして卒業制作での門扉の制作などが印象に残っています。どの制作も大変でしたが、とにかくやる気を持ってそれに打ち込めば形になる、そう思いました。

テーブルウェア

Q.寮での生活はどうでしたか?

 とても楽しかったです。会社に勤めていた時も寮に入っていたのですが、そこでは食堂で食事するときくらいしか交流はありませんでした。でも、DECOBIの寮はみんなで1つの建物に住んでいて、共有スペースの掃除当番(風呂・ロビーなど)があったり、ロビーや各部屋でお酒飲んだり話をしたり、時にはハメを外しすぎて寮長に怒られたりと、本当に楽しくすごせました。

 

Q.卒業後のことはどう考えていましたか?

 入学前からの目標であった「色々な分野の人たちとの創作活動」を行っていく上で、金属に関しては自分から提案ができて、制作もできるようにならなければいけない、その上で必要になってくる「自分の工房」を、いつになるかはわからないけど必ず立ち上げよう、と考えていました。

燭台

Q.就職活動は?

 積極的な就職活動はしていませんでしたが、在学中からホームページやブログで自分の活動や制作過程、制作物のことなどを記事にしていました。それを見てくれたある工房からスタッフ募集のメールを頂き、見学に行ったこともあります。いろいろ考えた末、当時DECOBIで指導して頂いていた講師の個人工房でお世話になることになり、そこで働きながら、自分の制作が出来る場所を探しはじめたり、少しずつ準備を進めていました。

 半年ほどして、現在の工房がある場所を紹介されました。いつかは独立したいと考えてはいましたが、2、3年先くらいを目標にしていたので、早すぎるのではないかと悩みました。しかしそこは制作するときにで出る騒音を気にしなくてすみ、交通の便もよく、ここを逃したらこれほど条件の良い物件にはもう出会えないかもしれないと思い決心しました。ただやはり決断するまでは本当にやっていけるのか、と不安が増すばかりで眠れない日もありました。

 それでも思いきって独立を決め、手を動かし始めると、思っていたよりも何とかなることの方が多かったですね。自分から動かなければ何も始まらない、変わらない。自分で動き、自分で責任を持つ。そんなあたりまえのことを改めて感じました。

金子さん工房写真

Q.最近の活動について教えて下さい。

 雑貨や道具のような小さなものから、家具やポスト、門柱など、空間や建築に関わる大きなものまで、様々なものを作っています。個人のお客様のオーダーメイドがメインですが、工務店さんの依頼で金物を作ったり、他工房の作家さんの依頼でパーツを作ったりもします。今はこだわらずに、出来る限りいろいろなものを制作していきたいですね。

 それから様々な素材、分野の作家や職人達のコラボレーションで、豊かな空間や暮らしの場を作っていくことを目的として、『Form for』というグループを2007年の秋から企画しました。陶磁や木工、ステンドグラス、ガラス、金属など、DECOBIの卒業生・研修科修了生を中心に、新宿のリビングセンターOZONEで2008年4月24日〜5月6日まで開催された「OZONE クラフトマーケット2008」に出店しました。

 将来的には使い手と作家、職人、建築家やデザイナーなど、様々な人と人とを繋ぐネットワークを広げていくことを目指しています。

作品展 会場写真

Q.これからものづくりを目指そうとしている方へメッセージをお願いします。

 自分が本当にやりたいと思えること、心からやりがいを感じられる仕事に出会えるまでには、決してストレートな道筋ではないと思います。でも後から振り返ってみれば、今まで経験してきたことはどれもみな大切なことで、無駄だったことなど何一つ無かったと思えます。

 どんなことからでも何かを学ぼうとし、実行してみることが大切だと思います。学び、実践し、失敗し、試行錯誤してまた学ぶ。その繰り返しの中で自分にとって大切なことは何か、自分なりのスタイルのようなものが、だんだんとはっきりしてくるような気がします。

 ものづくりを通して、人と人とを繋げていくネットワークを、これから広げていきたいと願っています。いつか機会があれば、共に何かを作りあげる仲間として仕事ができるといいですね。

 金子さんの WEBSITE  http://www.metal-neko.com/
         blog  http://metalneko.seesaa.net/ 

 (2008年7月 DECOBIにて)

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